武井武雄「愛蔵こけし図譜」
明治から大正にかけて珍品希品を集め持ち寄って清談にふける好事家たちがあった。最近、NHK教育テレビの「人間大学−知の自由人たち」で山口昌男がその一部を紹介した。そうした趣味人たちの中から大正末期に東北地方の子供の玩具「こけし」に特に注目した人たちが現れた。
そのころの、すなわち第一世代のこけし蒐集家では天江富弥、武井武雄、橘文策が良く知られているが、仙台に現存する天江蒐集品を除いてはほとんどが散逸したり焼失したりして失われた。特に童画家にして豆本刊行で有名な武井武雄の蒐集品は池袋の彼の居室「蛍の塔」とともに戦災によって完全に焼失した。武井コレクションは、まともな写真すら残っていないのでその概要は彼の版画集「愛蔵こけし図譜」(昭和一六年四月〜一九年一月 東京吾八)によって伺い得るに過ぎない。武井武雄の独特の筆法はあるものの、愛着を傾けたこけしの比較的正確なスケッチは今では重要な資料でもある。
ところでこの「愛蔵こけし図譜」には武井蒐集品以外のものが三種集録されている。すなわち鳴子の大沼竹雄、遠刈田新地の佐藤直助、土湯の阿部治助のこけしである。この三人のこけしについては武井蒐集品に取り上げるべき作が無かったため友人の蒐集家から借りて、補遺として図譜末尾に収載した。
幸いにしてこの三種のみは現存しており、武井図譜と現物を並べてみることが出来るので興味深い。ここでは佐藤直助、阿部治助、大沼竹雄の三種全てを紹介しよう。ちなみに直助、治助は木人子室蔵、大沼竹雄作は深沢コレクションにあって鳴子の「日本こけし館」で見ることが出来る。
(Jan. 11, 1998)
「愛蔵こけし図譜」遠刈田新地 佐藤直助
「愛蔵こけし図譜」土湯 阿部治助
「愛蔵こけし図譜」鳴子 大沼竹雄
武井武雄についてさらに知りたい人は次のホームページを参照して下さい。
http://www.ilf.jp/
http://www.mars.dti.ne.jp/~ginka/takei/takei02.html